万年筆。一本購入すると際限なく増えていく不幸のルート
万年筆を使い出した元々の切っ掛けは、腱鞘炎対策である。腱鞘炎対策における万年筆使用の効果は絶大で、手首の痛みや肩こりがかなり低減された。今では決して手放せないツールとなっている。
ちなみに、何か書くときは、ほぼ間違いなく万年筆を使い、他のペンを使うのは、専ら宅急便の送り状のような裏写りする感圧紙に書くときだけ。
多くはないが、万年筆を数本だけ持っている。持っていると言ってもラミーのサファリとアルスターのみ。手頃な価格にして実用的なこれは、万年筆界隈では入門用として揺るぎない地位にあり、ゼロから始める万年筆生活を送ろうと考えている方には打って付けの最初の一本である。と、自分はそう思っている。また、最初の一本で終わることなく、ずっとこの万年筆を使い続けても良い品であるとも感じている。
ところで、つい最近一本差しペンシースなる皮革グッズを購入した。残念ながら、このペンシースにはラミーのサファリやアルスターを挿入出来なかった。ペンクリップが大きすぎたのだ。ラミーのサファリ・アルスター以外の万年筆には決して手を出してはならない。と、心に誓っていたのだが、どうしても使ってみたくて、このシースに挿入出来る万年筆を購入してしまった。
ペリカンのスーベレーン M800(実際にはシルバートリムの M805)。
それにしても、このルートはまずいらしい。Bad endにしか辿り着けないと、多くの先人達がたどり、自ら検証し、散っていった軌跡。ほぼ間違いなく、一本が二本になり、すぐさま10本となり・・・、さらに恐ろしいことに、入れるインクも、ブラック、ブルーブラック、茶系、赤系・・・と際限なく増えていく不幸のルート。らしい。
さて、本当にそうなのか、早速検証してみよう・・・・。ついでながら、ペリカンのスーベレーン M400と M800についてのレビューも。
M400とM800のサイズ比較
M400のホワイトトータスと M805のブルー縞のシルバートリム。最初に購入したのは M805。ニブは共に EFである。
今まで散々使ってきたラミーのサファリと比較してみる。
キャップをポストして使うと、やたらとリアヘビーに感じる。ペン先の動きに集中できず、すごく尻軸側が気になる。ポストせずに使うと、サファリに近いバランスとなる。自分は、キャップをポストして使うほう。
なぜなら、格好いいから(笑
早く慣れようと少々我慢して使い続けてみる。すると、重量やバランスが気になるのは使い始めの初日だけだった。翌日からはキャップをポストしたまま使っても違和感は無くなる。
全長 | キャップポスト時全長 | 胴軸径 | キャップ径 | 重要 | |
M400 | 126mm | 146mm | 11.9mm | 13mm | 14.8g |
M800 | 139mm | 163mm | 13.0mm | 15mm | 28.7g |
サファリ | 140mm | 167mm | 12.5mm | 14mm | 18.5g |
アルスター | 139mm | 168mm | 12.0mm | 14.6mm | 23.0g |
さて、M805に続いて購入したのが、M400のホワイトトータス。M805のヴァイブラントブルーとか、M600ヴァイブラントグリーンも考えた。特にグリーンは、日本橋の丸善地下で見たときに衝動買いしそうになった。でも、あいにくと極めて近しい知り合いが保有しているので断念。ならばと、彼らが絶対に買いそうに無い色にしようと目についたのがコイツ。
何故、M805を購入したばかりなのにコイツを?世間一般の書き心地の評価は、M800のほうが上なのに、なぜコイツを?
何ででしょうね(汗
はっきり言って、買って良かったと思っている。むさ苦しいオヤジが居座る、あまり綺麗とは言えない部屋が、これ一本でファンシーな世界になる。まあ、それは言い過ぎとして、少なくとも周囲の半径15cm以内には不思議な結界が張られ、明らかに他とは異なる空間が出現する。今は、パイロットの色彩雫(いろしずく)月夜を入れているが、この一瓶が無くなったら、もう少し明るい色のインクを試そうと思っている。ただ、そうすると、幾分こことは違う。そう、異世界へ旅立ちそうな気がしないでもない。行ったきり帰って来れない予感もする。まあ、インク一瓶が無くなるまで時間は充分にある。行き着くところまで行くか、それまで良く考えたい。
サイズは、さすがに M800と比較すると小さい。持ち比べると見た目以上に差があり、軽さを感じる。
だが、ちょっと考えてみよう。
普段、一般に使われているボールペンよりも確実に重いのだ。キャップをポストした状態であれば、長さも同等か若干長い。太さについて言えば、胴軸のネジ部分の直径は 11.2mm。これもボールペンより太いのだ。他の万年筆に比べると小さいが、キャップをポストした状態のサイズは、決して小さくない。当初、短く削った鉛筆を持つイメージを思い浮かべていたが、取り越し苦労であった。筆記具として実用上充分すぎるサイズである。
同じペリカンでも大きく異なる書き心地
ブルーにシルバーは良く似合うと思う。ホワイトトータスの不思議な黄金の縞模様に金縁のペン先は似合っていると思う・・・・(ボソッ
以上独り言。以下、書き具合の出来について。
ノートに左から右に真っ直ぐな線を引く。最初はゆっくり、徐々に速度を早め、何本も平行に線を引いていく。それも、筆圧を掛けずにほぼ万年筆の自重のみで。M800は、かすれることも、点線になることもなく確実に線が描ける。一方、サファリやアルスターだと、ある程度描く速度を早くすると線が途切れる。一応断っておくが、このような極端な使い方ではなく、普通に文字を書いている時にはサファリであれ、アルスターであれ、こんな事は起こらない。
M800のインクのフローが潤沢な為なのか。確かにそうなのだが、通常潤沢すぎると、紙表面にいつまでも乾かずに盛り上がったインクが残ることになる。あるいはにじむ。でも、M800にはそれが無い。潤沢なフローと言う表現ではなく、適正と言う言葉が相応しい。どんな場面であってもその場に応じたインクを供給してくれる。使ったノートはツバメ B5ノート W60S。インクは M805 EF、サファリ F共にパイロット色彩雫の朝顔。
書き味は、ニブの調整の仕方でかなり変わってくる。ので、あまり参考にはならないが、少なくともサファリやアルスターとは異なる次元の書き味。てか、そうとしか表現のしようがない(笑) ただ、M800を使い出したから、サファリやアルスターを使わなくなるかと言うと、そうはならない。そちらはそちらで、万年筆らしい悪くない書き味なのだ。
もう一方のスーベレーン M400の具合は如何に。
M800とはかなり異なる。ニブが柔らかいのだ。
筆圧を掛けずに書く分にはそれほど変わらないが、少しでも圧を掛けると、その違いがはっきりと出る。柔らかくしなるために、ペン先を動かし文字を書いている途中で、時々だが手の動きに後からペン先が追従してくるような感覚。あるいは、紙からペン先が離れる瞬間に、紙に吸い付く感覚。いづれの手応えも、ニブがやわらかい所以であり、M800では得られなかったものだ。金ニブ万年筆らしい書き味。鉛筆やボールペン、さらには鉄ニブでは味わうことの出来ない心地であると言える。
M800は、ゆっくりと正確に字を書こうとすれば、書き上げた字もしっかりと、がむしゃらに書き殴ればそのように。書き方が正直に字へと反映される。同じスーベレーンでありながら、M400は少しそれとは異なる。より万年筆らしい味のある書体に仕上がる。
もう少しうまく筆圧をコントロール出来さえすれば、M400はきっと使っていて楽しかろうと思う。
M400 とM800 一本買うとしたらどちら?
今回は最初から結論をば。自分がどちらか一本買うとしたら、M400。
M800は、洗練された字が書ける。癖が無いのだ。筆圧を掛けようが掛けまいが、ある一定の線幅に収まってくれる。また、軸が太いために、長文を書着続けても疲れない。用途としては、今ではあまり見かけないが手書きの稟議書とか履歴書の類。あくまで M400と比べてのことであるが、真面目で少々遊び心が不足し、総じて物足りなさを感じる。
一方の M400は、どうか。金ニブらしい文字の味わいと書き心地を体感できる。大抵の人は、普段長文を書くことはあるまい。せいぜい日記程度。しかるに、プライベートで使うのなら、M400がよろしいかとの率直な意見を述べてみたり。
いずれにせよ、二本とも良い万年筆で、生まれ変わったら次も一緒に生きようと来世を誓い合える位の間柄になるようじっくりと付き合っていきたい。また、これらは使い始め評価なので、しばらくすると、印象が変わってくるのかも知れない。それはそれで楽しみである。
ときに、ペリカンなどの外国製万年筆ではなく、国産の万年筆はコストパフォーマンスが良いと聞く。特に日本語を書くためにある程度のチューニングされているとか。
普段使いならば、国産万年筆を強く押す人もいるらしい。
さて、近々、いや明日にでも・・・・ちょっと見てくるか。
M805と M400を購入したばかりなのに何故・・・? 来世を誓い合える間柄になれるくらいしっかり付きあいたいと宣言したばかりなのに何故・・・?
さあ、何ででしょうね(汗
※多分、購入はしないと思います。しばらくはこの二本とサファリで過ごします。出来ることなら生涯を。
手元に置いておきたいツール(おまけ その一)
万年筆は、使っていくうちにペンポイントが削れ、自然に使っている本人に合うよう書き心地が変化してくれるらしい。それはひと月とも、半年とも、あるいは二年以上掛かるとも言われ、かく言う自分の持つサファリなどは、鉄ニブでありながら買った当初に比べるとかなり書きやすく変化してくれている。順調に育ってくれているようである。
大事に使っている万年筆でも、へそを曲げるときがある。強く紙に押しつけて書いたり、ぶつけたりと。大抵は引っ掛かり感のある書き味となってしまう。そんな時に重宝しているのが写真のルーペ。研磨が必要な不具合以外。例えば軽度なペンポイントの左右段差修正程度であれば、これ一つで治すことが出来る。
実際に書き味が悪くなってしまった万年筆のニブ先端を拡大して見ると、ああ、ここがこうなって、こうだから、こんな書き味になってしまっているのかと、とてもよくわかる。手元にあるサファリやアルスターは、何回かそれで救われた。
自分で修正するのはチョット・・・・。と言う方にも、ニブのチェック用として置いておくと良い。世の中には、ペンドクターなるお医者様がいて、不具合のある万年筆を治してくれる。そこにお世話になるか否か、そんな判断を下したいときはこれで。
ペリカンのロゴについて(おまけ その二)
絵具の製造からはじまり、途中で経営参加したギュンター・ワーグナーの家紋を基にペリカンのロゴマークをデザイン。万年筆の製造を開始する前からこのロゴは存在し、過去には、ヒナが 3匹のロゴもある。ワーグナーに第四子が誕生した時は、ヒナが 4匹のロゴが作られたなど面白いエピソードもあるらしい。
万年筆には、ペリカンのくちばしをモチーフにしたクリップが取り付けられている。
常用するインクは、いろしずく(色彩雫) 朝顔、山栗、月夜
他記事として上げようと思っていたけど、早くこの Bad endルートから抜け出すための足掻きとして、ここに追記してしまおう。
常用しているインクで一番のお気に入りは iroshizuku(色彩雫)の朝顔。フォーマル、プライベートどちらで使っても安心出来る色。濃淡が出にくい分、気持ちいい程くっきりはっきりしている。気分が転換しない限りこの色を使っている。また、出先での補充を考えてミニボトルもストックし、常に携行している。
朝顔(asa-gao)はこんな感じの色
黒の代わりとしての山栗。小さな手帳用に月夜。朝顔同様パイロットの iroshizuku(色彩雫)。山栗は、少し地味かなと敬遠しがちだった茶系。焦げ茶色で、紙質によっては黒に見えなくもない。見えなくもないだけであって、黒ではない。なのでフォーマルには使えない。専らプライベート用である。あまり使わない色かと思い、友人とシェアしている。でも、いつの間にか減っているので、案外使う機会は多いのかもしれない。第一印象とは異なり、使いやすい色である。
山栗(yama-guri)はこんな感じの色
月夜は、iroshizuku(色彩雫)の人気色。紙の色や質によって、また、インクの乗せ具合によって濃淡、色合いが変化する。乾ききるまで、青と緑のどちらに落ち着くかわからない。不思議な色味である。スタンダードなブルーやブルーブラック以外で、青から派生したこの色が、1ページ丸々文字を書いても違和感を感じられなかったのには驚いた。不思議なインクである。
月夜(tsuki-yo)はこんな感じの色
さて、肝心の Bad endルートの回避が可能かどうかの検証について、
ええ、ご覧の通りのありさまでして、インク沼にもどっぷりと浸かってます。アゴのすぐ下あたりまでどっぷりと。ものすごく居心地良いです。でも、ほんのちょっと苦しかも。もうすぐ口元。
このままだとそう遠くない時期に Bad endを迎えることになりそうです。
と言うことで、しばらくは万年筆は購入しません。なので、以降は新規購入の万年筆ネタは期待しないでください、、
と、何度も宣言して、懸命に Bad end回避を試みる
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