先々月、万双の「双鞣和地 天ファスナー」のレビューを掲載した。雨の日を除き、ほぼ毎日通勤の供となってくれている、その使い心地は全く悪くない。一点を除けば何の不満もない。
と言うか、これを不満と言って良いものかどうか。断っておくが、この不満を以て「双鞣和地 天ファスナー」自体の評価が下がることはない。その鞄を使う側の”問題”なのだ。
鞄は想定した収容力を超える荷物を入れると、色々と差し障りが生じる。鞄の型くずれである。皮革は弾性を持ち、伸びたり縮んだりするのだが、弾性変形を超える力が加わると、やはり塑性変形に至る。
自分は通勤の際、あまり多くの荷物を持ち歩かないタチ。けれどほんの時々、鞄の収容力を超える荷物を運ばなければならないときがある。「あとほんのチョットなのに、ほんのチョットのスペースがあれば、鞄一つで済むのに・・・」という状況に出会したことはないだろうか?現状、長期出張は別にして、九割がた万双の「双鞣和地 天ファスナー」一個で事足りている。そう、九割なのだ。
万双の「双鞣和地 天ファスナー」は、荷物を目一杯詰め込み、側面の皮革を大きく膨らませて使うようなデザインではない。両側面に分厚い芯材が入っている鞄ならなおさらだ。どうやら「双鞣和地 天ファスナー」は、多少程度であれば無理に詰め込んでも問題ないと考えるのは問題となる鞄らしい。
そんな訳で、残り一割を解決するため、万双の「シモーネ シングル天ファスナー」をGET。
なら、「シモーネ シングル天ファスナー」一個で良いじゃん!と言われるかもしれないが、芯材が柔らかい鞄は荷物が入ってないと潰れてしまい、やはり型くずれに至る。鞄にはそれぞれの収納力に応じた適度な詰め物が必要なのだ。
内装は黄色生地。この黄色は、収容した小物を探しやすいようコントラストを付けるためと言われている。汚れやすいのは確かだが、鞄屋の配慮だと自分は受け取っている。内部には star-board側に小さなポケットが 3つ。さらにその外側にはファスナー付きポケットが 1つ。 port側にも大きなポケットが 1つ。こちらはホック止めである。3つ並んだ小型ポケットは底面まで達する深さがあり、大型長財布をスッポリ収納出来る。
「双鞣和地 天ファスナー」は窓の隙間から覗くような見晴らしだった。そのために、収容された小物は目で見て取り出すのではなく、手探りでキャッチすることを強いられる。時には、隙間から覗く→手探り→キャッチ失敗→隙間から覗く→・・・と何度か繰り返さなければならない場面もあったり。
一方、「シモーネ シングル天ファスナー」は鞄の底近くまで伸びるファスナーにより開口部はもの凄く広く大きい。目で見て確実に取り出すことが出来る。「双鞣和地 天ファスナー」には鞄の中を周りから覗かれにくいという利点があるものの、鞄としての使い勝手は「シモーネ シングル天ファスナー」の方が上である。
「双鞣和地 天ファスナー」のサイズは W41.2/H29.0/D7.0(cm)、「シモーネ シングル天ファスナー」のサイズは W43.0/H31.0/D9.5(cm)。数字で見ると大した差はない。が、側面に丸みを持たせてあるので、実際にはサイズ以上に収納力の差がある。あと 1cm深さがあれば、「双鞣和地 天ファスナー」を丸々収納出来てしまうほど。お店の人曰く「双鞣和地 天ファスナーの倍近い収容力」。
万双のシモーネ シングル天ファスナーは丸みを帯びたフォルムが特徴。底部分の角はご覧のようにまるで革靴のつま先のよう。それにしても、どうやってこのふくようかな形状を保たせているのだろう。カド部分のみならず、全体が丸々としている。「双鞣和地 天ファスナー」とはまさに正逆だ。
ベルト幅は 23mm。ベルトの素材も本体と同じくシモーネ。肩が当たる部分にはパットが付いていて、これも材質はシモーネ。
シモーネはきめが細やかでしなやか。使っていくうちに適度な光沢も出てくる。キズの修復力も強く、茶系であれば、色の変化も楽しめる。言うなれば牛革の優等生的な存在。
「双鞣和地 天ファスナー」や「シモーネ シングル天ファスナー」は万双として長年造り続けてきたデザイン。縫製に代表される細工は、その積み重ねにより安定して良質。ここで登場した 2個の鞄は少なくともその期待は裏切らなかった。
なお、今回はファーストインプレッションによるレビュー。実際に使い続けていくと、今回とは異なる印象や新たな発見があるかもしれない。その時は、「通勤用鞄どれがお好み?どれが良い?」とでも題して、レビューしてみるつもり。まあ、いつになるかわからないけど・・・。
万双 シモーネ シングル天ファスナー動画
<2015/12/13追記>動画を撮ってみた。購入後から拭き 4回,水拭き 1回。大してメンテもしてないのにそこそこツヤが出ている。
それも、かなり深みのあるツヤ。中世から続いていると言われる歴史のある製法で作られた革。双鞣和地と違って、こちらは安心出来る。
(動画撮影日:2015/12/14 1280 X 720 プログレッシブ ビットレート800kbps H264 ファイルサイズ 5.2MB)
たまには屋外で撮った写真を掲載。今日は 2017年3月9日。まだまだ肌寒く、コートが手放せない。
この鞄も使いはじめて 1年以上経過たが、大きなキズもなくツヤツヤになってきている。シモーネ(ミネルバリスシオ)なので、クリームの塗布は一切せず。