様々なあざなを持つ名工具
発祥の地はアメリカで、デンマーク出身のピーターセン氏により考案された工具。ちなみに、バイスグリップは商品名である。
特許が切れた後に、様々なメーカーが同様な製品の取り扱いを開始し、その際、ロッキングプライヤー、バイスプライヤー、バイスグリッププライヤー、グリッププライヤーなどの新たな名称が生まれた。
写真は上から、ロブテックス(エビ印)、KTC(京都機械工具)、スリーピークス技研(3-peaks)の製品。各メーカーとも呼び名が異なっていて、公式サイトでは、ロブテックス社の製品がバイスプライヤ、KTC社がロッキングプライヤ、そしてスリーピークス技研社はバイスプライヤーと記載されている。ここでの呼称はバイスプライヤーを使った。
この 3製品は同じような形状をしているにも関わらず、その用途や操作性が異なる。ちなみに材質は 3製品ともクロムモリブデン鋼。
先端形状の違い。用途により使い分けが必要
まずはこちらから。
左がKTC社の 175WR。右がロブテックス社の VW175NA。共に呼称サイズは 175mm。
写真の通り、一目瞭然である。ロブテックス社のバイスプライヤーはネジの頭をより掴みやすくするため抉りが入り、タテ歯が付されている。
くわえ部を開いてみると差がよくわかる。
この加工形状の違いに対し、どちらを良しとするかのような議論は無意味である。得意とする用途が異なるのだ。
自分のバイスプライヤーの主な用途は、溶接の際の仮止め。あるいは組立前の仮組みである。こうしたクランプ的な用途に於いては両者とも使い勝手に差は無い。
一方、メーカーが意図しているとおり、頭の舐めたネジを緩める時にはロブテックスのバイスプライヤーが優位に立つ。
逆に、細いワイヤーなどを引き抜くような作業では、KTCのバイスプライヤーでないと行えない。一長一短である。やはり用途によって使い分けるのが正しい。
実際に M4のナベネジの頭を掴んでみた。
175mmのこのサイズのバイスプライヤーで掴むことが出来るのは、直径が 12mm以下のネジ頭である。ナベネジなら M2~M6。トラスネジであれば、M4~M5。
上のKTC社の 175WRの場合、先端の溝がネジの回転方向と平行になるため、ネジを固定しにくく、実際に強固に締めこまれたネジを回そうとするも空回りすることしばしば。
一方、何かを引き抜くような作業には KTC社の 175WRが適す。
ロブテックス社の VW175NAを引抜き用途に使った場合は、すっぽ抜けるのだ。
トラスネジはネジ頭のエッジ部分が薄く、掴みきれない場合がある。
そんなトラスネジを引き抜く時には、ネジザウルスを使うことになる。ネジザウルスのほうが先端加工の精度が高いためだ。ネジザウルスが必要なシーンでは、間違いなく組んず解れつの格闘となる。
ただし、バイスプライヤーと異なり、ネジを掴んだ状態で固定することは叶わず、チカラ技となる。
こちらは、130mmサイズ。スリーピークス技研(3-peaks)から「小ねじバイス」の名称で販売されている製品。バイスプライヤーとしての基本機能はそのままに、舐めたネジの頭をより確実に掴むための工夫がされている。
同社独自設計のダイヤ型にカットされたつかみ部により、ネジ頭は 3点の接触箇所で支持されるのだ。
残念なことに最も汎用的な 175mmサイズが何故か製品化されていない。ただし、M5以下の舐めたナベネジを引き抜くには最適で、ネジザウルスでもなく、175mmサイズのロブテックスのバイスプライヤーでもなく、これを使っている。自分が何かを製作する際、基本的に M5以上のネジは六角あるいは六角穴付きを使うのでサイズ的な不便さは感じていない。
ネジザウルスを使わないのは、バイスプライヤーにはロック機構が付いていて、回すことのみに専念できるから。冷や汗と滝汗をかくことがない。
ネジにドライバーを当て、舐めるかも・・・と悪い予感がしたら、舐める前にこれを使う。早め早めに対処することで被害を最小限に抑えられる。
ちなみに、スリーピークス技研(3-peaks)からは、ネジザウルスと同様なカテゴリのトラスネジプライヤーなる製品を扱っている。使ったことはないが、このバイスプライヤーと同様にダイヤが型の縦ミゾ構造を有している製品で、巷の評価は高いらしい。
リリースレバーの機構の違いにより操作性が異なる
バイスプライヤーのロックメカニズムは機構学の基礎の基礎である「四節回転連鎖」の応用。「四節回転連鎖」を応用した代表的なクランプとしては、トグルクランプがある。バイスプライヤーはこれに調整機構を加えさらに発展させたものである。
また、ほぼ全てのバイスプライヤーにはロック解除機構が付く。このリリースレバーによるロック解除機構は、バイスプライヤー発案後数十年経ってから装備たものである。
特殊なバイスグリッププライヤーをのぞき、このリリースレバーの機構には 2種類存在し、若干ながら使い勝手が異なる。
写真上がスリーピークス技研(3-peaks)のバイスプライヤーで、国内では トップ工業が、海外メーカーではクニペックス(KNIPEX)の製品がこのタイプ。
一方の写真下は KTCのバイスプライヤーで、国内ではロブテックスの他、TONEが、海外ではバイスグリップ発案元のピーターセン社を巡り巡って吸収したアーウィン(IRWIN)の製品がこのタイプ。
いずれも小さな力で大きな力を得るてこの原理を利用したもので、どちらであっても適度な力を加えることでスムースにリリース出来る。支点(写真○印)、力点(写真矢印)、作用点(写真ギザギザ矢印)の位置関係を見れば明明白白で、スリーピークス技研(3-peaks)などは第二種てこ、KTCなどは第一種てこの原理を用いてる。
第二種てこの原理を利用した製品は、第一種てこの原理を利用した製品に比べ握り部分がスリムとなる。200mmを超える大きなサイズのバイスプライヤーであれば、それほど手が大きくない日本人にとってはスリムタイプのほうが握りやすい。また、可動レバーとリリースレバーが一体となるため、感覚的な美においても勝るのかもしれない。
一方、写真にあるような 130mmサイズの比較的小型のバイスプライヤーでは操作性に影響が出る。第二種てこの原理を利用した製品は、握って力を入れた際に、小指もしくは手の平で誤ってリリースレバーを押さえてロック解除してしまう可能性がある.と言うか、頻繁にある。
自分にあったバイスプライヤーを探そう
目的にマッチすればこの上なく便利な工具であるが、こうしてあらためて眺めてみると姿形は似つつも意外と細かな箇所が異なることがわかった。その違いは、小さな工夫であったり、メーカー毎のコンセプトでもある。
あまりにも形が似ているので、一見すると何となく見過ごしてしまいそうなこの違いは実際に使ってみると無視出来ない程に大きな差である。購入する時は、是非用途を明確にし、自分が求める機能・目的に沿ったバイスプライヤーを選ぼう。
そしてこの工具は、見た目に違わず DIY用途では一生付き合いが出来るくらいに丈夫。