ワイヤーロープの圧着工具。アーム産業のアームスエージャーHSC-23のレビュー

投稿者: | 2023/05/02

思っていたよりも手軽に作れる台付けワイヤーロープ

ワイヤーロープの活用

ワイヤーロープには先端のアイ(輪)加工の方法の違いにより玉掛け(玉掛けは、クレーンなどに物を掛け外しする作業)ワイヤーロープと台付けワイヤロープの 2種類に分けられる。台付けワイヤーロープはアイスプライス加工(編み込み加工)時の差し込み回数が規格化されておらず、玉掛けには使用できない。

ここで紹介する圧着工具を用いてアイ(輪)加工を施したロープは、台付けワイヤーロープに分類され、専ら物を固定する用途に使われる。

ワイヤーロープのアイ加工は難しいものと思って使うのを躊躇っていたいたのだが、知り合いがアルミスリーブを使って簡単に加工していたのを見て、自分も工具を購入してみた。

購入した工具はアーム産業のアームスエージャーHSC-23。
ワイヤー径 φ1.5㎜、φ2.0㎜の専用工具だ。

上の写真は直径 2㎜のステンレスワイヤーにアルミスリーブを使ってアイ加工したもので、一般家庭で使う分には吊り具として十分な強度が得られる。

使いどころを選ぶが、用途によってはこれ以上は無いと思うほど便利な吊り具なのだ。

なお、ワイヤーロープは安全対策にも使われる吊り具なので、実際に使う場合は、是非ワイヤーメーカーや工具メーカーの公式サイトをのぞいて、注意事項等を確認してほしい。

ステンレスワイヤーロープとアルミ圧着スリーブ(アルミ製かしめ)の選び方

ワイヤーロープには JIS規格が存在する。

ただし、JIS G 3525には、ワイヤーロープ径 φ6㎜以上のみが対象で、φ6㎜未満は明記されていない。

すなわち、ワイヤーロープも圧着パーツも工具もメーカーが好き勝手に作れてしまうのだ。
好き勝手に作れてしまう、作ってしまうので、メーカー間の差は極めて大きくなる。

φ6㎜未満のワイヤーロープについては、ワイヤーロープやカシメに使うスリーブ等の選定をメーカーから提供されている資料やデータに頼ることになる。

日本産業規格 規定対象
JIS G 3525 ワイヤロープ
JIS G 3535 航空機用ワイヤロープ
JIS G 3540 操作用ワイヤロープ
JIS G 3546 異形線ロープ
JIS G 3549 構造用ワイヤロープ
JIS G 7301 一般用ワイヤロープ−ISO仕様及び特性

ステンレスワイヤーロープについて

近くのホームセンターで販売されているワイヤーロープは SUS304のステンレス

ステンレスであるのは、長期在庫に耐えうるためであろうか、それとも防錆油が塗られていない分、取り扱いが容易であるためであろうか。あるいはスチールワイヤーの単価があまりに安いため取り扱うメリットが低いためであろうか。

いずれにせよスチール製に比べ錆びにくい、見た目良し、入手も容易。コストは掛かるが、一般家庭内や DIYで利用する際は大抵ステンレス製を選ぶことになる。

1.5mmステンレスワイヤー

SUS304はオーステナイト系ステンレスで磁性を持たないと言われているが、ワイヤーロープの製造工程には曲げや絞り加工があり、こうした強い力が加わる機械加工が施されると一部の金属組成がマルテンサイトに変化し磁性を持つようになる。

磁石に付くのでオーステナイト系ステンレスでないのではないかと疑う人もいるが、ワイヤーロープの場合、一般的には SUS304と記載があったとしても磁石に付く。

肝心の引張強度については、メーカーから提示される数値のみに頼らざるを得ない。

同じメーカーの同じサイズ、同じ材質であっても製造の仕方、仕上げ方法の違いにより強度は異なる。
安価にするため、敢えて仕上げ工程の一部を省いている製品さえある。

良心的な、常識的なメーカーの場合、そうした商品は理由と共に強度が低いことを明記し、それを踏まえて選択するよう注意書きを添えている。
ちなみに、そうした廉価商品の強度低下の度合は 2割、3割当たり前である。

一方で、サイズと材質だけの記載で、強度について何も明記せずに販売されている商品も存在する。規格が無いので仕方がないのである。
こうした商品を使うには夢と希望と勇気と覚悟を必要とする。

アルミスリーブの選び方

アルミオーバルスリーブ

スリーブ部分の引き抜き強度はスリーブの材質・形状によって大きく異なる。

左からアーム産業のアームオーバルスリーブ。某大手通販サイトで売られていたメーカー不明のアルミスリーブ。右は国内では仮止め用として販売されているアルミスリーブ。

右の形状の製品を、特に仮止め用と明記せずに汎用アルミスリーブとして販売しているケースを多々見受ける。注意を要する。

アルミワイヤースリーブによる圧着

実際にステンレスワイヤーをカシメた状態が上の写真。

右側の仮止め用スリーブを使ってカシメた場合、手で強く引っ張るとワイヤーがスリーブから抜けてしまう。仮止め用としては正しい仕様である。

ならば抜けないようにと、より強い力でカシメた場合、カシメた部分の肉厚が薄くなり、引っ張った際に破断してしまう。
仮止め用途以外に使う気になれない。と言うか、そもそもワイヤーカシメに仮止めって必要?

左側と真ん中では、スリーブの長さとカシメ個所数だけの違いに見えるが、凹凸の凸の山の高さからわかるように左側は真ん中よりスリーブの肉厚が厚くなっていることがわかる。

スリーブはワイヤーロープ全体の強度に影響を及ぼすパーツなので、十分調査した上で選定したい。
安価だと思って購入した後に、買い直す羽目に陥ってかえって高くつく場合もあるのだ。

エンドキャップについて

ワイヤーエンドキャップ

ワイヤーロープの先端は、ワーヤーが露出しているため安易に手で触れると指に突き刺さるなど怪我の原因となる。
通常それを防ぐため、先端にエンドキャップが取り付けられる。

先端の処理は、ビニル製エンドキャップを被せる方法、ビニルテープで被覆する方法など様々あるが、最も確実で、見た目も良いのがアルミ製エンドキャップを使う方法。

写真右側は φ1.5㎜。左側は φ2.0㎜にアルミ製エンドキャップを取付けたもの。真ん中はサイズ感を示すための参考用爪楊枝。

使ったキャップは自転車部品で有名なシマノ製 インナーエンドキャップ φ1.1㎜ディレイラー用と φ1.6㎜ブレーキ用。

φ1.6㎜ブレーキ用は φ1.5㎜と φ2.0㎜の両方のワイヤーに使えるので 2種揃えたくない人はこちらを共用してもよい。


φ1.5㎜、φ2.0㎜ワイヤー専用。アーム産業のワイヤーロープ圧着工具の使い勝手

アームスエージャーHSC-23

ものすごく前置きが長くなってしまったが、これより本題である。
紹介するのはアーム産業のアームスエージャー HSC-23。ちなみに、この記事の写真のカシメは全てこの工具で行ったもの。

アーム産業は金物の町と呼ばれる三条市を発祥とし、昭和21年に個人経営でスタートした。ワイヤー圧着工具は昭和63年に製造を開始している。

アーム産業のワイヤー圧着工具の特徴は、同時に販売されているオーバルスリーブとセットでの使用を前提としていること。
特に、この HSC-23はワイヤー径 φ1.5㎜と φ2.0㎜専用なため、用途はかなりタイトになる。

ただ、そうした制限どこ吹く風、その使い勝手と仕上がりの良さはとても満足できるもので、購入して良かったと思わせる様々な特徴を持っている。

アーム産業のアームオーバルスリーブの秘密

アーム産業のアームオーバルスリーブ OS-1AとOS-1B

ワイヤー径 φ1.5㎜と φ2.0㎜で工具が共用できる秘密はオーバルスリーブにある。

写真は両サイズのスリーブを垂直に立て、上からテレセントリックレンズで覗いたもの。
両スリーブの外形寸法を同じにすることで、カシメ個所が一つしかないこの HSC-23でも二つのサイズのワイヤーロープの圧着加工が行えるのだ。

また、アームスエージャー HSC-23と専用アルミスリーブをセットで使った場合、ワイヤーの引っ張り強度が保証されるのも嬉しい。

ただし、アーム産業の公式サイトやアルミスリーブのパッケージに記載されているこれらの数値は、規格の無いワーイヤーロープを取り扱う関係上、全ての φ1.5㎜や φ2.0㎜のワイヤーロープの安全荷重を保証するものではない。
あくまで公的機関で試験した結果に基づく参考値である。

参考値とは言え、こうした具体的な安全荷重をデータとして提供していただけるのはとても有難く、他メーカーにはない貴重なサービスである。

ワイヤーロープ径 ワイヤーロープ破断荷重
(1本)
安全荷重
2本(垂直) 2本(開き角30°) 2本(開き角60°)
φ1.5㎜ 210㎏ 56㎏以下 54㎏以下 48㎏以下
φ2.0㎜ 330㎏ 96㎏以下 92㎏以下 82㎏以下

専用工具と同等のワイヤー切断能力

ツノダ ワイヤーロープカッターWC-150

ワイヤーロープはニッパーやペンチで切断してはならない。
やった事のある人ならわかるが、そうした工具を使って切断すると、切断部分が潰れてワイヤーが解れてしまうのだ。

当然、アルミスリーブの穴にワイヤーを通すことも出来なくなる。

写真は、ツノダのワイヤーロープカッター WC-150。
多分、世界的に有名なクニペックス社に対し OEM供給されているものと同じ商品だと思う。トネからはワイヤーミニカッター WMC-150としても販売されている。これがわずか 1,000円少々で購入できてしまう。コスパ最高である。

切断能力は、スチールワイヤーで φ4.0㎜、ステンレスワイヤーで φ3.0㎜。

アームスエージャーHSC-23によるワイヤー切断

アームスエージャー HSC-23にはワイヤー切断機能が付与されていて、圧着対象の φ1.5㎜と φ2.0㎜のワイヤーは別途工具を用意することなく切断できる。

上のツノダのワイヤーロープカッター WC-150と切断面を比べてみたが、遜色なく綺麗に仕上る。切れ味も良く、正直専用工具の必要性を感じない。

専用工具が必要なのは、もっと太いワイヤーロープをカシメるとき。
太いワイヤーロープの圧着工具はやたらとデカくて取り回しが悪く、切断機能が付いていたとしても使いにくいのだ。












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