大菱計器製作所の角台トースカンが終息
トースカンの語源はフランス語の Trusquin。さらに Trusquinの由来を説いていくと、その意味は «小さな十字架(petite croix)»
まあ、確かに十字架に見えなくもない。が、形としては、サバイバルホラーゲーム Dead by Daylightの吊るしフックが近い。
トースカンは滅多に目にしない道具であるが、使う人はやたらと使う。そして、これ無くして困難極まりない作業がある。
なお、この記事にたどり着いた方々には釈迦に説法するようなものなので、ここでは使い方の説明は省略。
写真は、大菱計器製作所の 200㎜サイズ角台トースカン PG102。残念なことに全サイズ終息。最終受注受付日は2018年9月25日であった。
純国産、こだわりのトースカン
今現在販売されているトースカンは、ほぼ海外で作られていて、手元にある大菱計器製作所の細部を見ていくとそれらとは明らかに造りが異なることがわかる。
柱と罫書針
写真はトースカンの柱と罫書針のジョイント部。
柱は幅 25㎜で、厚さは 8㎜もある。一見鋼板に見えるが、実は鋳鉄製。止めボルトが移動する長穴の内側の黒く塗装された鋳肌がその証拠。鋼に比べ、鋳鉄は振動をよく減衰してくれるので、罫書く際のビビリが皆無。
柱と罫書針の接着面は研磨され、罫書針の上下のスライドや角度調節の際にも引っ掛かりは一切感じない。
固定ボルトと蝶ナット
ボルトは M8と太く、蝶ナットは第 1種で大きい。
トースカンに関する昭和の初期の頃の資料を見ると、トースカンの罫書針や蝶ナットを豆ハンマで叩いて位置合せする図が頻繁に見られる。躊躇うことなく叩こう。針の高さの微調整作業では、とても有効な手段。
ボルトの根元には長穴の幅に合わせた回り止め加工が施されていて、これにより罫書針の位置固定は蝶ナットの操作のみで済む。
ボルトと柱、柱と罫書針、罫書針とワッシャ、そして蝶ナットのそれぞれが広い面で接触しているので、蝶ナットを軽く締めるだけで固定できる。
写真では反射により銀色に見えてしまうが、ボルト、ワッシャそして蝶ナットは全て真っ黒。表面は黒染処理されている。
罫書針
罫書針は厚さ 4㎜。機械構造用炭素鋼ではなく炭素工具鋼で、先端が焼入れされている。
焼き入れ範囲はかなり広く、摩耗しても砥石で研磨すれば即復活。折れさえしなければ多分一生モノ。
ハイトゲージの平べったいスクライバと異なり、正に針のよう。定規からの採寸がし易い形状となっている。
ハイトゲージはトースカンの進化したものであるが、この罫書針の先端は、こちらの針状に尖ったもののほうが使いやすい。
ベース
ベースは鋳鉄製で塗装仕上げ。
恐らくは焼付け塗装で耐油。
柱の付け根は罫書針の先端を除き、トースカンの最も弱い個所。ここを溶接してしまう人もいる。
柱は、ベースの裏から六角穴付きボルト 2本で固定され、柱が回り出すことはない。
ベース底面は、平面仕上げされている。面粗さよりも平面度が重要で、定盤の上に置いてガタがある場合は、砥石を使った研磨で修正可能。
トースカンの完成形
ハイトゲージが主流になる以前、罫書道具としてトースカンは盛んに使われていた。
その昔、罫書作業を行う際、最も重要な道具と言われていた時代もあった。
長い歴史を持つだけに、使い勝手や強度など、様々な面から何度も見直しが図られ、それからさらに数十年、ほぼ同じ形のまま販売され続けてきた。すなわち、この形がトースカンとしての完成された形。
道具は使い捨て。そんな考え方はおかしいと気づかされる出来具合である。終息はとても残念。
終息直前のカタログから角台トースカン(SURFACE GAUGE)のバリエーション一覧を写し取っておく。
コードNo | 呼び寸法 | 寸法 | 質量 |
L x W x H x t(mm) | Kg | ||
PG101 | 150 | 150 x 65 x 40 x 22 | 0.5 |
PG102 | 200 | 200 x 65 x 40 x 22 | 0.6 |
PG104 | 300 | 300 x 85 x 66 x 27 | 1.4 |
PG106 | 400 | 400 x 105 x 75 x 37 | 2.7 |
PG108 | 500 | 500 x 125 x 95 x 55 | 5.4 |
PG109 | 600 | 600 x 125 x 95 x 60 | 7.0 |
PG110 | 750 | 750 x 150 x 115 x 80 | 12.0 |
PG112 | 1000 | 1000 x 230 x 130 x 95 | 18.0 |