ハクキンカイロと使い捨てカイロの発熱量計算
ハクキンカイロの燃料はベンジン。片や、使い捨てカイロの燃料(?)は鉄粉。発熱量は 13倍と言われている。
使い捨てカイロの発熱量計算
使い捨てカイロは鉄粉の化学反応熱を利用した製品。
鉄の原子量は 55.85で、1mol=56g。使い捨てカイロ中には、0.54mol相当の鉄粉が入っている。
鉄粉が化学反応により発熱する原理は次の化学式によるもので、1molの鉄粉が発熱する熱量は 96Kcalと導き出されている。
保温時間 18時間前後の使い捨てカイロの粉体内容量は 50g前後で、鉄粉はそのうちの 60%程度を占めている。
すなわち使い捨てカイロ一袋に入っている鉄粉は 30gである。
上の式より、使い捨てカイロ 1袋分である鉄粉 30g = 0.54molは 52kcalの発熱体であると算出出来る。
ハクキンカイロの発熱量計算
一方、ハクキンカイロの場合はどうであろうか。
ハクキンカイロは、白金触媒を使い、気化したベンジンが炭酸ガスと水に分解される際に発生する反応熱を利用したもの。
カイロの燃料であるベンジンの主原料はヘキサンで、こちらは 1mol=86.18g。ヘキサンの燃焼熱量は 998kcal/molである。
ハクキンカイロの場合、保温時間 18時間に必要なベンジンは 18.5mlで、比重を 0.7とし、重量に換算すると 13gになる。
ベンジン全量がヘキサンだと仮定(無理矢理)すると、ヘキサン 13gは 0.15molに相当し、発熱量 150kcalの燃料になると求められる。
使い捨てカイロとハクキンカイロの発熱量の比較
使い捨てカイロに使われる鉄粉の平均粒径は 70-80μmで、これより細かいと消防法上の危険物第二類の鉄粉基準「目開き53ミクロンの網ふるいを通過するものが50%以上」に抵触する恐れがあり、取り扱いが非常に困難となる。
要は粉じん爆発の危険性が出てしまい、安易に販売することが出来なくなるのだ。
こうしたことやその他の事情で、使い捨てカイロは、より微細な鉄粉が使えない。
粒径の大きな鉄粉の比表面積は小さく、粒子表面のみで化学反応が起こることから、ほとんどの鉄は未反応の状態のまま残ってしまう。
52Kcalは、鉄粉全量が反応したとの仮定の下に算出した値なので、実際の使い捨てカイロの発熱量は、これよりかなり小さくなることが予想される。
単純に比較すると、使い捨てカイロの 52Kcalに対し、ハクキンカイロは 3倍近い 150Kcalの発熱量を有していることがわかる。が、さらに使い捨てカイロの場合、鉄粉の全量が反応することがないため、その差はさらに広がる。
ちなみにハクキンカイロ公式サイトには「カロリーは使い捨てカイロの約 13倍」との記載がある。逆算すると、使い捨てカイロの発熱体である鉄粉は、22%程度しか反応出来ていないことになる。勿体ない気がするが、安全上致し方ない。
発熱量の違いを感じることが出来るシーンとしては、寒い日にポケットから出した時の温度低下の速度の違いがある。使い捨てカイロが冷たい空気に触れた瞬間に冷めてしまうのに対し、ハクキンカイロはある程度の時間温度を保ってくれる。
これは、熱を熱容量の大きな金属ケースに貯め込んでいる事も理由であるが、カイロ本体の発熱量の大きさの違いによるところが大きい。
一日之長どころの話ではない。ハクキンカイロの白金触媒部
白金触媒を使用したカイロはハクキンカイロの他、様々なメーカーが類似の商品を販売している。
ただし、同じ原理、同じ構造を持つ全てのメーカーのカイロが、ハクキンカイロと同じように暖まるかと言えば、それは否である。
ある製品は保温持続時間がやたらと短かったり、別のある製品では臭いが発生したりと、様々な問題を抱えている製品もある。
カイロの心臓部はまさにこの火口で、この部分の造りや白金メッキ綿の仕上げにより触媒の活性度が異なってくる。流石にこの部分については、1923年よりカイロを造り続けてきたハクキンカイロは一日之長どころではないノウハウを持っているようだ。
燃料たるベンジンは1シーズン2本もしくは3本の消費
現在、ハクキンカイロ指定のベンジンは、エビスベンジンと NTベンジンの 2種類がある。共に内容量は 500ml。自分は、最初に使ったのがエビスベンジンで、使っていて特に問題がなかったので、他を試すことなく以来ずっとエビスベンジンを使い続けている。(とは言え、2瓶目であるが……)
写真左下にあるのがハクキンカイロ本体に付属するベンジンカップ。ベンジンカップには 2本のラインが引かれていて、上のラインが 12.5ml、下のラインが 6.0mlの表示目盛りになっている。
上のラインの 12.5mlを注入すると 12時間発熱してくれる。この発熱保温時間はかなり正確で、エビスベンジンの場合、上のラインの量を注入すると計ったのかの如く 12時間前後で発熱が終了する。普段は 1カップ半入れて、18時間相当を注入する事が多い。
容器 1本あたりの内容量は 500mlで、約 500時間分。一日あたり 18時間相当の 18.5mlを使った場合、27日≈1ヶ月分になる。毎日使うわけではないので、1シーズンに使うベンジンの量は 2本もしくは 3本だろうか。暖冬の年や気温の低い地方に住んでいるのでなければ 2本で良いはず。
ハクキンカイロの優位な点は、圧倒的な熱量とその継続性。一方、ランニングコストは…
実のところ、ハクキンカイロのランニングコストは決して良いものではない。使い捨てカイロが出た当時は、それらが今程安価でなかったため優位性があった。
しかしながら、今時の使い捨てカイロは、一袋あたり20円程度まで値が下がっている。燃料であるベンジンは、ガソリン、さらには灯油よりも高価で、一日あたりに掛かる費用を計算すると、そこまでは下がってはくれない。
ただし、ハクキンカイロの良い点として、熱量の多さがある。また、初めから終わりまで一定の温度が保てるところも利点である。
使い捨てカイロは、開封しておよそ 15分程度までは温度が上がり続けるが、それ以降は鉄粉の反応速度が落ち、徐々に温度が下がってしまう。
カイロの温度が下がってきた場合、鉄粉表面の反応物の除去や、凝集してしまった鉄粉をほぐすために、使い捨てカイロの袋を一生懸命に揉んでみたりするのだが、一時的には復活するも、即元に戻ってしまう。
偉そうな事を書いてきたが、実は、ハクキンカイロについて調べ、こうした良さがわかるようになったのはつい最近である。購入したのもはじめてである。
と言うことで、最近購入したこのハクキンカイロは、とても快適でほぼ毎日のように使い、体の一部と化すまでに至っている。
消耗品として、火口の他に収納袋がある。こうした袋を使用せずに使うと火傷すること間違いなし。残念ながらこちらは単品販売されていない。ただし、ZIPPOのカイロ用収納袋がデザイン違いなだけで同サイズ。こちらが使用できる。