重さは悪なのか?シグマの50mm F1.4 DG HSM Artとは
シグマは日本のレンズメーカーの代表格の一社。そのシグマが打ち出しているフレーズが「すべてのレンズを 3ラインに再編」。Artライン(アーティスティック・ライン)はそんな 3ラインの一角で、コンセプトは「とにかく描写性能を」。
「とにかく描画性能を」重視したため、切り捨てられ、半ば無視されたと思われる部分も多い。瞭然一目、サイズと重さである。
重量は 815g。単焦点 50mmとしては異例の重さ。サイズも標準レンズとは思えないほど大きい。このフォルムに似つかわしい何かが詰め込まれているかと言うと、カタログスペックを見る限り、明るさは F1.4であり、手ぶれ防止も付いていない。極めてありふれた平均的なものとなっている。
それにしても、つい先日、重いのは悪、軽さは正義!などと宣い、軽いレンズを賞賛していたのに、対極的な、悪の権化的なレンズについて今ここで語ることになろうとは思いも寄らなかった。
外観も操作も極めてシンプル
外観はほぼ黒。目立つ箇所といえば、Artラインであることを示す Ⓐ のエンブレムとレンズ取り付け指標の真っ赤なポッチ。その赤いポッチもマウント部にあるため、実際にカメラに装着すると隠れてしまう。黒と白の二色を基調とし装飾も控え目なので、キヤノンやニコンのレンズを並べ比べると、それらがやたらと派手に見えてしまう。落ち着いた雰囲気。一言で言うと威風堂々。精悍ではなく、無骨的に。
重量があるので、軽いカメラボディであればレンズ先端に近いところを、少々重めのボディであれば、カメラ本体に近いろころを手で支えることとなる。フォーカスリングの幅は広く、どちらであっても苦労なく操作出来る。
個体差なのかかもしれないが、フォーカスリングはスムースとは言い難い。回転抵抗は程良い(キヤノン純正レンズよりやや重め)のだが、その抵抗にはムラがある。使っていくうちにスムースになってくれることを期待している。
ズームレンズではないので、操作はフォーカスリングに集中できる。そのため、静止している被写体を撮る時に MFでの合焦を選ぶ人は少なくないはず。フォーカスリングの遊びはほぼゼロで精密なピント合わせが出来る。
フォーカスリング以外のレンズの操作は AF/MF切り替えボタンの一箇所だけ。
購入する前は、カメラメーカー純正レンズではないので、AFの精度や速度に不安があったが、実際に使ってみた限り今現在その不安は完全に解消されている。感覚的には最新の純正レンズと遜色ないほどの早さと精度と言って良い。また、レンズが明るいため、同様な焦点距離を持つズームレンズ等に比べると少々暗めの室内であっても迷うことなく合焦してくれる。
鏡胴の一部は精密機械加工
鏡胴のほぼ全体がつや消しブラック。ただしマウントベース部のみ、その材質と仕上げ、そして雰囲気が異なっている。
一見、磨いた後にアルマイト加工。に見えなくもないが、目を凝らすと(写真をクリックして拡大)旋盤による切削跡が確認できる。精密機械加工である。削り出しである。削り出しでここまでのツヤを出しているのである。シグマさん、少々頑張りすぎでは?と心配になってくる。
残念なことに防塵・防滴構造とはうたわれていない。必須ではないが、安心感が違う。
ただし、カメラメーカーの純正レンズであれ、サードパーティのレンズであれ、「防塵・防滴性の高い構造」であったり「防塵防滴性に優れたレンズ」の表現にとどまり、防塵・防水・防滴の規格である IP表記は付されていない。JIS規格の試験に合格していないため、水の浸入に対する保護等級を明記することが出来ないのだ。規格上は非防水である。カタログ等にはピクトサインで「防塵/防滴」と表記している点が何となく詐欺っぽく思えなくもない。過信は禁物である。
重い。やはり軽さは正義。けれどもその重さに釣り合う画質であったなら、
焦点距離 50mmに似つかわしくない異様なサイズである。
このサイズ・重さ故、操るときはしっかりと支え構える必要がある。その分気合いが入る。お手軽とは決して言えない。
キヤノンの EOS 5D Mark IVは決して小さくないカメラである。バッテリーとメモリーカードを装着した状態で約 890g。ボディ単体であれば約 800g。そしてこのレンズは先にも述べたように 815g。単焦点 50mm標準レンズの癖にして、フルサイズ一眼レフカメラ本体と重量比で 1対 1である。
この重さ自体、従来の国産レンズの常識ではあり得ない事である一方、シグマの本気を感じさせてくれる。覚悟と決意を感じさせてくれる。
シグマのこのレンズ設計者は、重量に関して本当に見て見ぬフリをしてしまったようだ。描画性能以外は考えなくてよいと冗談で言ったのを本気にされてしまった。と言うシグマの後日談を期待したい。
参考までに、35mmフルサイズ向けのArtラインシリーズの一覧を載せておく。欲しい物リストとも言う。特に単焦点。
モデル | 最大径 × 長さ | 質量 |
---|---|---|
12-24mm F4 DG HSM | φ102.0mm × 131.5mm | 1,150g |
24-35mm F2 DG HSM | φ87.6㎜ × 122.7㎜ | 940g |
24-70mm F2.8 DG OS HSM | φ88㎜ × 107.6㎜ | 1,020g |
24-105mm F4 DG OS HSM | φ88.6mm x 109.4mm | 885g |
14mm F1.8 DG HSM | φ95.4㎜ × 126㎜ | 1,120g |
20mm F1.4 DG HSM | φ90.7㎜ × 129.8㎜ | 950g |
24mm F1.4 DG HSM | φ85㎜ × 90.2㎜ | 665g |
35mm F1.4 DG HSM | φ77㎜ × 94.0㎜ | 665g |
50mm F1.4 DG HSM | φ85.4㎜ × 99.9㎜ | 815g |
85mm F1.4 DG HSM | φ94.7mm × 126.2mm | 1,130g |
135mm F1.8 DG HSM | φ91.4mm × 114.9mm | 1,130g |
そもそもなぜこんなに重たいレンズを保有しているのか。それを語るには多分原稿用紙 100枚分のレポートが書けるくらいの長い話になる。端的に言えば、今のキヤノンの単焦点 50mmレンズに魅力を感じないからだ。琴線がわずかに触れるレンズを挙げるとするならば、最近出たばかりの EF50mm F1.8 STM。ただ、それは低価格故の圧倒的コストパフォーマンスの魅力。
シグマのこのレンズの魅力は、ピントが合った箇所の圧倒的シャープさと分解能。ボケ味や各種収差の補正に手を抜いているかと言うと、そうではなくて、そちらも平均を上回る優等生的な性能。とにかく合焦箇所の描画が素晴らしい。
常用する F値は 2.8~であろうか。開放だとピント幅が薄いため何枚も撮りだめ、あるいは撮り直すこととなる。近接に近い距離だととにかく歩留まりは悪い。が、苦労、それに見合った画像が得られるはず。
一方で、欠点も存在する。逆光に弱いことだ。屋外、屋内を問わず強い光源が視野内に存在すると、強いゴーストが発生する。それも紫色の濃いゴースト。ゴーストやフレアの低減にはフードの装着の他、レンズコーティングが代表的な対策であるが、シグマは他社に比べて若干コーティング技術が弱い気がする。
重さや大きさをほとんど無視したこのような製品は、カメラメーカーが純正レンズとして出しにくいとは思うが、正直、かなり差を付けられてしまっている。
撮りたい被写体があって、構図のイメージを頭の中に描く。その時それがこのレンズに収まるシチュエーションであったなら勝ち。今ではそんな信頼のおけるレンズとなっている。
重さというハンデを背負いながら、徐々にではあるが、その重たさを受け入れようとする風潮が強まりつつある。
やはり、皆、良い写真が撮りたいのだ。
君はこの重さに耐えうるか←思わず笑いました。終始レンズのデザインと重さで文章は終わっています。レンズの描写力には一言も触れてないところが素敵ですね。
こんばんは。コメントいただき有難うございます。
自分のお気に入りは、どうしても好きな点を書きたくなって、大抵は誉め言葉の羅列になってしまう。自分の悪い癖らしいです。
レンズ性能について語れば、そうなるのが見えていたので、こんな書き物になってしまってます。
今後ともよろしくお願いいたします。