ビデオ雲台の入門機 マンフロット(Manfrotto)の MVH500AH
マンフロット MVH500AHは、一眼カメラを使った動画撮影用としては入門機的な雲台。
そしてかく言う自分も、機能・性能の割に軽く手軽なので、動画撮影時に最もお世話になっている雲台でもある。
これより大型となると、ザハトラー(sachtler)やヴィンテン(vinten)に代表される本格的雲台に、これより小さな雲台は、一眼カメラではなくハンディカムや軽量ミラーレスカメラ用となる。
ビデオ雲台を選ぶ当たり、着目すべき点は、
- 雲台に積載するカメラ機材の重量に見合った十分な耐荷重性能
- 同様に、十分なチルト側カウンターバランス
- 前後荷重バランスが調整可能な長いスライディングプレート
- 保有する三脚あるいは一脚に積載可能な総重量
- 各可動部のスムースな摺動
と、頭の中に浮かんだ項目を挙げてみた。他にも色々あるが、これだけは最低限押さえておきたい。また、気軽に持ち歩きたい場合はその重量にも着目したい。
一眼カメラ用として捉えた場合、極端に大きなレンズを取り付けない限りマンフロットの MVH500AHはこれらの項目をほぼ満足する。
マンフロット MVH500AHは、実際かなり世話になっている機材で、レビューしてみたかった機材でもある。
MVH500AHの諸元とカウンターバランスグラフ
MVH500AHは、最大積載重量が 5kgまでの軽量ビデオ雲台。カタログにはこれとは別にカウンターバランス重量が記載され、こちらは 2.4kg(プレートからのカメラ重心高さが 55mmの時)となっている。
最大積載重量は機械強度から来る重量制限で、実際に運用することを考えた場合、このカウンターバランス重量がビデオ雲台としての同架可能重量である。
なお、ビデオ雲台と称しながら、このカウンターバランス機能を持たない雲台も存在するので注意が必要である。
まずは、自分用のメモも兼ねて、MVH500AHの基本的な仕様。
項目 | 仕様 |
---|---|
型式 | MVH500AH |
雲台タイプ | ビデオフルード雲台 |
重量 | 900 g |
最大耐荷重 | 5 kg |
カウンターバランス | 2.4 kg(プレートからのカメラ重心高さ 55mm時) |
チルトドラッグ | フルード固定 |
パンドラッグ | フルード固定 |
ベースタイプ | フラットベース |
フロントティルト | -70° / +90° |
パン回転角度 | 360° |
付属プレート | 500PLONG |
プレート移動範囲 | 100 mm |
パンバー | 500HLV |
パンバー長さ | 340 mm 固定 |
ベース側直径 | 60 mm |
カメラ取付ネジ | 3/8″、 1/4″ |
アクセサリ取付ネジ | 3/8″ |
水準器 | 1ヶ |
ビデオ雲台は、雲台に載せた重量物に対し、内蔵されたバネの反発力でバランスを取っている。スチルカメラ用雲台とは異なる一番の特徴で、カウンターバランスと呼ばれる機能。この機能のおかげで、チルトロックレバーハンドルを締めずにパン棒から手を離したとしても、お辞儀することなく、天を仰ぐこともなくその場で静止を維持してくれる。また、低いフリクション下で動作し、軽いカメラ、重たいカメラのいずれであってもカウンターバランスの釣り合いが取れていれば同じような力で操作が行える。
さらに、スチルカメラ用雲台と同様、チルトロックレバーハンドルを操作することでフリクションコントロールも行える。
すなわち、両方の機能を組み合わせ、自分好みの特性となるようセット出来るのだ。
上の図はマンフロットのビデオ雲台 MVH500AHのカウンターバランスグラフ。縦軸が雲台上部プレートからカメラ重心までの距離。横軸は搭載するカメラの重量を示す。
各々がこの赤い非線形曲線上にあるとき、カウンターバランス機能の恩恵を最も受けることが出来る。
なお、曲線上から多少はずれたとしても、チルトロックレバーハンドルを操作し、フリクションを加えることで、バランスが保てる。
ちなみに標準的な一眼レフの場合、重心位置はカメラ下端から50∼55mm程度とされ、肩で担ぐショルダータイプのビデオカメラは 125mm程である。
ショルダータイプのビデオカメラの重量と重心位置を鑑みると、MVH500AHではバランスを取るのは難しく、MVH500AHは、やはり一眼カメラ用の雲台と言って良い。
一方、こちらはザハトラー(Sachtler)のビデオ雲台 FSB4のカウンターバランスグラフ。バネの反力を 5段階に調整が可能で、完全に全域とは行かないまでも、ほぼオレンジ色の範囲内でバランスが取れる。マンフロットの MVH500AHのカウンターバランスが固定であるのに対し、こちらは可変カウンターバランスと呼ばれている。
ザハトラー(Sachtler)のビデオ雲台については、また別の機会に。
重量バランスと前後バランス
カメラを雲台に装着する際、重心の高さと共に、前後のバランスについても留意しなけらばならない。
上の写真はカメラ本体を雲台プレートの中心付近に取り付けたため、重心位置ががレンズ寄りになり、おじぎしてしまった例である。
カウンターバランスグラフの縦軸は、雲台上部プレートからカメラ重心までの距離を示す。しかしながら、実際の力のモーメントの距離は、チルトの回転軸中心から重心までの距離である。したがって、雲台プレートを前後に移動し重心が回転軸の鉛直上に来るよう位置を調節するのが望ましい。
ビデオ雲台に、調整代の大きな長めのプレートが付いているのはこの為である。MVH500AHはこのクラスの雲台にしては 100mmと長めのプレート調整代を持っていて不満は無い。
キヤノンのEOS 5D Mark IVに EF24-70mm F2.8L II USMを取り付けた時の丁度良い前後方向の位置は写真のようにかなり後方となる。
EOS 5D Mark IVの重量が約 890g、EF24-70mm F2.8L II USMの重量が約 805gで、合計 1,695gである。この状態だと、搭載物重量に対しカウンターバランスの反力がやや勝り、雲台をある程度の角度でチルトし、チルトロックレバーハンドルがフリーの状態で手を離すと静止を維持出来ずに水平に戻ろうとする。
このような場合、チルトロックレバーハンドルを静止が維持出来るまで若干締め込み、摺動抵抗を与えることで回避出来る。
また、カウンターバランス重量に対し。極端に軽いカメラを載せるときは、雲台プレートとカメラの間にスペーサやクイックシューなどを挟み、重心位置を持ち上げることでバランスが取れる。少々不格好となるが、有効な手段である。
静止状態の維持は、あくまでカウンターバランスを活用し、チルトロックレバーハンドルの締め込みは適度な操作抵抗を得るための機能である。
フルードドラッグシステムによる滑らかな摺動。ただし揺り戻し有り
マンフロット(Manfrotto)の MVH500AHには流体の粘性抵抗を利用したフルードドラッグシステムと呼ばれる機能が装備されている。流体力学で最初に習う平面ポアズイユ流を応用したもので、由緒正しいトルク伝達方法。
構造が単純で故障が少ないのを特徴としている。
人のパン棒を介した操作は、流体を介してトルクが伝わる。このフルードドラッグシステムは、ダンパーとしての作用に加え、操作時の適度な抵抗感として働く。すなわち、微細な振動の吸収や、急激な動作に対する緩衝作用が効き、滑らかなパン・チルト操作が可能となるのだ。
一方で、欠点も存在する。
気温が低い季節(要は流体の粘度が高くなった場合)に、パン・チルト操作から静止に至った際、静止させたその状態から手を離すと揺り戻しが発生する事がある。流体の粘性抵抗を利用しているフルード雲台には付きもので、解消は難しい。
ちなみに、これが気になり出して我慢できなくなると、大抵ザハトラー(Sachtler)へと皆さん旅立ちます。あの粘性ダンパー的な機構は優れもの。