あとがき
冒頭に書いておいてあれだが、これはあとがきである。編集後記である。
一番のお気に入りのレンズ。買うにはかなり勇気のいる金額だが、面目なくちょろいんと化した。自分はこのレンズにぞっこんなので、多分何かを語るには客観性に欠けると思う。でも逆にその分、印象に残るレビュー記事が書けるはずと考えていた。のだが、出来上がったのは普通どころかそれ以下のつまらないものになってしまった。
表現に手心を加えすぎたためだ。
書いた本人がこんな感じでお勧めしていないにも関わらず読み始めてしまった方々は、途中できっとこう言うだろう。
3行でお願い。
なので、書いた内容を要約
「キヤノンのレンズらしく収差もうまく打ち消されている」
「逆光耐性の向上はもっと評価されるべき」
と、二行で終わってしまった。
書き始めた当初は、かなり過激に満ちた、持ち上げた評文となっていた。
それこそ、至高のレンズ、エクセレントなスーパー Sクラスレンズ、異彩を放つ神の手によるレンズ、などなど。さらには、ここには書けないようなあんなことやこんなことも。
しかし、あまりにも度が過ぎて、それがあまりにも恥ずかし過ぎて、Ctrl+A → Delete。結局書き直し、さら修正を重ねていったらこうなった。
重箱の隅に何も残さないような優等生について語るのはとても難しい。
以下、その残骸たる思いだけで書き上がった駄文……
3代目となるキヤノンの広角ズームレンズ EF16-35mm F2.8 L III USM
初代 EF16-35mm F2.8L USMは 2002年に発売され、当時はやたらと逆光に弱いとか、周辺光量落ちが酷いと評価され、デビューとしては芳しくなかった。一方、一台で広角から超広角までを 1本でカバー出来、さらに F2.8と明るい光学系であったため、単焦点広角レンズを複数持つことに抵抗のあるユーザーからは喜ばれ重宝がられた。
2007年に発売された II型は、初代に比べ球面収差の改善によりにじみが改善されたが、コマ収差は相変わらずで星空を撮影すると一目でわかる位に像が流れていた。ズームレンズの限界で、これ以上の画質を求めるなら単焦点を使いなさいとのお告げとして受け取られた。
そして、昨年(2016年) 3代目が発売。Lでは初の IIIを冠するレンズである。
ファインダーを覗きながら、16-35mmのレンジでズームリングを操作した際の、世界が縮んだり広がったりする様は圧巻である。
ちなみに、買って良かったと思っている一番のレンズ。
画角(水平・垂直・対角線) | 98°〜54°・74°10’〜38°・108°10’〜63° |
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レンズ構成 | 11群16枚 |
絞り羽根枚数 | 9枚 |
最小絞り | 22 |
最短撮影距離 | 0.28m |
最大撮影倍率 | 0.25倍(35mm時) |
フィルター径 | 82mm |
最大径×長さ | φ88.5mm×127.5mm |
質量 | 約790g |
非球面レンズ関連特許を数多く保有するキャノンならではの少ない収差
広い画角を持つのが広角レンズ。
特徴として遠近感の強調が挙げられる。撮り方によってはかなり極端に、手前にあるものはより手前に、遠くにあるものはより遠くに存在するよなダイナミックな写真が撮れる。
出来上がった写真を見る人は、そんな広角レンズのギミックを解明しようと、隅々まですかし見ようとする。望遠レンズやマクロレンズで撮られた写真とはそもそも関心の向くところが異なるのだ。
近くのものから遠くのものまで、全ての距離にある被写体にピントを合わせるパンフォーカスの効果と相まって、画界の中央部の画質を特に重視などと言う戯言・手抜きが通用しない。すなわち、望遠レンズやマクロレンズ以上に周辺の画質は重要な項目となる。
色収差を蛍石レンズで、球面収差・歪曲収差は非球面レンズで補正解消。カメラ用レンズを設計する上で常識以上のお約束である。
キャノンは非球面レンズに関する有効特許を数多く保有していて、その数と質の両方で未だ他メーカーの追随を許していない。他メーカーはレンズを作る技術は持っていても実際に作るとなると多くの制約を受けるのだ。
III型へのモデルチェンジにより、レンズ構成はほぼ変わらないものの、組み込まれたレンズ一枚一枚や群としての形状は全く異なる。F値と焦点距離以外は別物と言って良く、III型、II型に比べ周辺の画質が格段に向上している。少し大きめに拡大してみると直ぐさまわかるくらい差がある。逆に言えば、大きく拡大さえしなけれべ遜色なし。とりあえず進化はしている。
問題なのは、¥230,000から ¥299,000へと、どこからどう見ても一目でわかる価格上昇。いつか出るであろう Ⅳ型は ¥300,000を超える気満々である。キヤノンならきっとやる。末恐ろしいレンズである。
最新のコーティング技術を投入。逆光耐性の向上はⅢ型のこのレンズの目玉だと思う
ハレーションやゴーストは、光源が写角内に有る無しに関わらず、また、前玉のレンズ表面に当たる当たらないに拘わらず強い光により引き起こされる。ちなみに、ハレーションは大嫌いだが、ゴーストは好き。ただし、パープルフリンジ付きは除く。
付属するフードはかなり控え目なサイズで、望遠レンズと違って装着するとかなり不格好になる。
そしてハレーションやゴーストを防ぐ手立てとして、フード以上に有効なのがコーティング。最新のコーティングが施されたレンズと旧型のレンズでは圧倒的な差が生じる。
キヤノンの交換レンズは種類・品揃えが多く、充実しているように見えるが、実は設計が古いレンズがかなり混在している。もちろん当初の設計が見事で、解像とかコントラスト等に関して今でも通用する製品もあり、一概にそれが悪いとは言えない。ただし、事コーティングに関しては古さを感じざるを得ず、やはり逆光耐性は、新しいレンズに軍配があがる。
EF16-35mm F2.8 LのIII型は、その最たる品で、入射角が大きな光に対して効果のあるSWCと、垂直に近い入射角の光に対し効果が高い ASCの二つのコーティング技術が新たに採用された。II型との差は圧倒的であった。プラシーボ効果と疑ったこともあった。その効果を信じたかったと言う気持ちがあるにはあった。ただ、使ってきた中で、今ではその効果を知るに至った。もちろん全くハレーションやゴーストが発生しないということではなく、あくまで感覚的な、相対的な評価である。
実は、ハレーションやゴーストのような逆光耐性と呼ばれる特性の指標や評価方法は定まっておらず、専ら使う側の印象による評価となる。当然、比較する程の数のレンズを持ち合わせていることは稀であり、やはり感覚的な評価とならざるを得ない。ここでの評価は先代のII型と比較してでのことだ。大抵、新製品のレンズが出ると逆光耐性がアップ的な紹介文が書かれている。ただそれはほんの少し、気持ちばかり向上してさえいれば記載出来てしまうのだ。メーカーも歯がゆいのかもしれない。大幅に向上させたとしても、数値で表現できないので差別化が難しいのだ。
レンズレイアウトを変えず、外形やサイズもほぼ変化させずに新しいレンズとして生まれ変わらせる。最近そんな手法が増えている。手ブレ補正やAF速度などに関わる電子部品や制御アルゴリズムの改善による使い勝手の向上させ、写りに関しては最新のコーティングの付与。メーカーとしては開発コストを押さえることが出来る。
タムロンの SP 24-70mm F/2.8 Di VC USD G2 (Model A032)やキヤノンの EF50mm F1.8 STMなどがそれだ。
ユーザーにとっては新鮮味に欠ける一方、従来レンズの写りの印象さえ良ければ、そこには安心感が生まれる。外観や構造が変わらず(もちろん外観が大幅に変わっている製品もある)とも、使い勝手や画質の向上は約束されているのだ。望ましいリニュアル方法だと思う。
MTF曲線に代表される数値的評価はもちろん大切だが、実際に写真にしたときの仕上がりとしてフレアやゴーストの有無はそれ以上に大きな影響を及ぼす。フレアやゴーストの低減措置はもっと評価されて良いのではなかろうか。
持ち歩きに欠かせないレンズとなっている
普段持ち歩くレンズは、これとシグマの 50mm F1.4 DG HSM Art。旅行や街中撮影は大抵この 2本でやっつけられる。
・・・次回につづく。
あとがきは冒頭を参照。